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めもがき

踊り場

2009/05/03お題
 不意に引き寄せられた。

 もちろん理由がある。
 階段から落ちそうになったのだ。腹立たしいことに。

 それでも一瞬、身体が反応しそうになる。
 それを意志の力で押しとどめるのにどれだけ苦労してるのかわかってるのかコイツ。

 いっそとめなければいいとも思うが、そうしたら怪我じゃすまないことになるし余計にめんどくさい。

 ああ、くそ。

 俺を抱き寄せた張本人は、「危ないだろ」なんて言ってるが。

 「お前が気付かないなんて珍しいな。ここの階段が汚れてること自体が珍しいっちゃ珍しいけどな」

 エレベーターが故障中で、珍しく階段を上がってきたらこれだ。
 おそらく修理に来た連中が機械油かなにかを落としたんだろう。
 階段の踊り場にはいくつか光る模様ができていた。


 「いいかげん離せ」
 「いやーせっかく役得だからもうちょっと、いでっ」

 脛を蹴り上げた。

 「あいかわらず容赦ねぇなぁ」

 だからなんで蹴られて嬉しそうなんだお前は。
 視線を向けたら、照れくさそうな顔になった。

 「いやー…ほら、最近お前、蹴る元気もなかったから、さ」

 思考を読むな!


 返事はせずに、床の模様は避けて階段を上がり始める。
 後ろでまだ何かほざいてるが知ったことか。